あの頃、ふたりで。

遠い昔のラブソング

北見にて

あしのすきま

サックスブルーのジーンズを穿いた君は「両足を揃えて立った時にね、足と足の間に隙間があるといいなって思うんだけど・・」言いながら君は両足を揃えて足元を見る。「えっ!?」野郎どもは一瞬たじろいで動きを止めた。ちょっと待ってよ、女の子同士の会話…

なごり雪

2階にある事務室の窓は中央大通りに面していて大きく空が見える。今日は晴れていて気持ちが良さそうだ。密閉された空間でモグラのように作業をしていると、時折見る外の景色には息抜き以上のものがある。例えそれが見慣れた街並みであっても貴重な時間であ…

承知しねぇ

隣に座っていたYさんが何か言いたそうに僕を見ている。何の用だろうとそちらを向くと、皆からは見えないように机の下で拳を作り、小声で僕に伝えてきた。「Jeyに手ぇ出したら、承知しねぇぞ」目がテンになる。僕の顔は豆鉄砲を喰らった鳩のようだったんじゃ…

テレビのない部屋と君の部屋

「NHKのテレビで新日本紀行ってあるでしょ」君はお茶を飲みながら話す。「私、あの番組好きなんだ。テーマ曲もいいし」僕もお茶を飲みながらどんな番組だったか思い出し、感じたままを口にする。「あの曲は日本人の郷愁を誘うよね」とたんに君の顔は嬉しそう…

炉端焼き

「これキンキっていうの、おいしいわよ」左側の椅子に座った君が皿に取り分けてくれた。僕は早速箸をつけ、ウマイねぇ、と言いながら次々と口へ運ぶ。「でしょう・・」君はしたり顔だ。甲斐甲斐しい君の様子は眺めているだけで心地よさを覚える。もし二人き…

汽笛

テレビのない6畳間に寝転んで君に借りた星新一の文庫本を開く。遠くで《ポッ》と短い音が鳴った。北見駅から届いた汽笛が殺風景な部屋を通り抜けて行く。 星新一のメルヘンチックな雰囲気に染まった頭の中を、時折句読点のような汽笛が横切って行く。僕の中…

清張と新一と洋子

僕を説得にかかる君の顔はどうやら本気のようで、清張ファンを増やそうとする熱意を感じる。 君は言葉を濁していたけど、きっと美味いって確信のようなものを感じる。何故だろう、そこは人間性が現れる気がして譲れない確信だった。 聡明って、そのまま君だ…

誕生石

「私の誕生石はエメラルドだわ」 休憩時間の雑談中に君はそんな話を始めた。それまでは星占いやノストラダムスの大予言の話題だったので、僕はてっきり同じ系統の話なのかと考えを巡らせたものの、結局、頭の上に沢山の疑問符を浮かべるだけの結果に終わった…

子供みたい

君はそっと僕の手のひらに触れ、驚いたように言った。「やだ、ウソッ、子供みたい・・」まだ半信半疑の君に僕は手を差し出す。「ちゃんと触ってみなよ」 僕の手に君の手が重なったところで、ぎゅっと握ってやった。これでハッキリ解るだろう。 「わ、暖かい…

負けそう

それは女性の声で「・・なんだね、負っけそ」と言ってると即座に分析が行われた。小首を傾げた姿勢で談笑している女性の姿があった。気さくで開けっぴろげに女子トークを展開しているのはメイさんだった。