あの頃、ふたりで。

遠い昔のラブソング

あしのすきま

5,6人が集まっていた。それぞれが勝手にコーヒーやお茶の入ったカップを持ち、事務室の明るい窓際にたむろしている。ほんの短い一時、手の空いた者だけがやって来る時間帯なので、これだけの人数が揃うのはとても珍しかった。

 

ポツポツと始まった会話は、仕事の段取りから次の休日の予定へと気ままにあちこち飛び火する。そして誰かが言い出したファッションの話題を皮切りに、好ましい女性のスタイルやプロポーションの話へ移って行った。

「ロングヘア―がいい」、「やっぱスリムでしょう」、「少しくらいボリュームがないと・・」、「健康的な小麦色だね」、「バランスだよバランス」・・

男たちは女性の存在が希薄な(君しかいない)ことをいいことに、完全に視野から外して勝手なことを言い合っていた。

 

「両脚を揃えて立ったときにね・・」

ずっと聞き役だった君のちょっと大きめな声に、皆んなの話し声は一瞬止まる。立った時がなんだって?

「・・脚と脚の間にすき間があると、いいなって思うんだけど・・」言いながら君は下を向いて自分の脚を見る。

足のすき間? 一斉に君を振り向いた男たちは揃って怪訝な顔をしている。

両脚を揃えた君はお構いなしに、ほら見て、と言わんばかりに訊いた。

「ねぇほら、すき間、ある?」

「!?」

野郎どもは一瞬たじろいで動きを止め、全員の顔が、え?、と言っている。ちょっと待ってよ、女の子同士のおしゃべりじゃないんだからさ・・。

じっと見つめるのは憚られるし、まさか手を出して確かめるなんてとんでもない。互いに顔を見合わせて、どうする?、と相談していた。誰も声を出さない。

《ちら見、くらいなら大丈夫じゃね?》暗黙の合意が野郎どもの間で交わされると、ようやく場の空気が緩み、皆はもぞもぞと動き出すことができた。

ちらりと見た限りではすき間はありそうだ。

「あ・・うん、すき間、あるんじゃない」野郎どもも並んで両脚を揃え、自分の両脚の間に手を入れて確かめる。

「みんな開いてるよ。これって普通じゃないの?」煙に巻かれたような気分で訊いていた。「すき間があったら、どうなるんだ?」

「どうって・・いいスタイルだと思わない?」君は “分からないかなあ” って顔をしている。

「なるほどねぇ・・・」僕たちは納得したような顔で、もう一度自分の足元を見るしかなかった。

 

皆んなは慣れているらしく平気な顔で遣り過ごしていたけど、僕は不思議な感覚に囚われていた。

君って、いつもこんな調子なの?

本人に訊く訳にもいかないから、いつか誰かに訊いてみよう。君のいないところで、それとなくね。

 

◇◆◇

 

その時君が穿いていたのは、サックスブルーのソフトジーンズだったよね。

君の身体にフィットしたそのジーンズは、気持ち良いくらいにスッキリとした君のスタイルを際立たせていた。

そう、君のプロポーションと顔立ちは、見る者に涼し気な印象を与える。たとえ真夏の熱い日差しの中でもね。

あの時のジーンズ姿は、忘れられない。

 

 


遠い昔の恋の始まり。
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