あの頃、ふたりで。

遠い昔のラブソング

誕生石

[今日のあなたのラッキーカラーはピンク、お出掛けするなら南東がお薦め]

[靴ひもが自然に緩んだら出会いの可能性大。天気雨は両想いの予感]

[中吉:待ち人来る]

占い、ジンクス、おみくじに縁起担ぎ。こうした類は山のようにあるけれど、恐らくどれもこれも大した根拠はないはず。それでも当たれば感謝するし外れても非難しないのが大人の作法というもの。当たるも八卦、当たらぬも八卦なのですから。

チンプイプイやイワシの頭のおまじないと同じで、臨機応変に半ば信じ半ば無視して楽しんでしまうのが宜しいようで。

今日の話題もこれらに類似したものかと思ってたら、少しばかり毛色の違う話題だったらしい。

 

◇◆◇

 

「私の誕生石はエメラルドだわ」

休憩時間の雑談中に君はそんな話を始めた。それまでは星占いやノストラダムスの大予言の話題だったので、僕はてっきり同じ系統の話なのかと考えを巡らせたものの、結局、頭の上に沢山の疑問符を浮かべるだけの結果に終わった。

「え、なに? 誕生石?」初めて聞く意味不明な名称に、僕は素直な疑問を呈した。「エメラルドって宝石の?」

「そうよ、あのエメラルド」

「エメラルドが誕生石って何? 宝石が発明とか発見された月なのか? 発明っていうのも変だけど」

「知らないの?」

君は不思議な人を見る目で僕を見るけど、僕の知ってる宝石なんてダイヤにエメラルドにルビーくらいのものだ。それが誕生って・・。

「初めて聞いたよ、誕生石なんて」

「その人の生まれた月ってあるでしょ」君は呆れたように話し始めた。

「うんあるよ、だれにも」と僕は相槌を打つ。

「それで、生まれ月のイメージに一番相応しい宝石を決めたの」

「ふうん、イメージね・・」

雲をつかむ様な話で、ふわふわとして心許ないというか頼りない心持ちがする。たぶん僕はそういう顔をしている。

「それでね・・」

君が話を先に進めようとするから、僕は少し慌てて待ったを掛ける。

「ちょっ、と待って」この話の根拠が気になってしまった。「曰く因縁があるとか、古くからの言い伝えがあるとかってことじゃないの?」

僕の的外れな質問に、君の目は点になってしまった。

「ええと、違う、と思う・・」

「じゃあ、何処かの誰かが決めたってこと? 机の上で」

解らないことが増えるばかりで質問も頭の中も混乱気味だ。そして混乱は君の言葉にも伝染してしまう。

「えっ、っと。机の上じゃないと思うけど・・」あやふやな事態はこれでお終いとばかりに、兎に角、と言った君は結論を告げる。「そういう風に決められてるのよ」

「そう、なのか」質問は受け付けないようだ。兎に角、決められたことだから決まっているらしい。強制力はなさそうだから少し安心するけど、知らなくても問題なさそうだ。「宝石を扱う国際組織みたいなものが決めたのかな、商品のイメージ戦略か何かで」

「そうかもね」僕の態度の軟化に君はちょっと安心したように見える。「それで1月から12月までの12個の宝石が決められてるのよ」

「へえ、12か月全部決まってるの」

「当然よ、欠けてる月がある方が変でしょ」

「そうだけどね」僕は急に誕生石の普及具合を知りたくなる。「皆んな知ってるの?この話」

「そうね、大概の人は知ってると思う。常識的な話だし」

「常識なのか・・」僕は非常識になってしまった。まあ、世間知らずであることは認めるけれど。「それにしてもねぇ。宝石と月を・・」僕がいまひとつ納得がいかない顔でぼやいていると

「そういうふうに決めたのよ」と君は断言する。

君は納得してるようだけど、科学的な根拠なんて無いんだろうし、僕のもやもやとした気分は晴れてはくれない。

「誰だろね、そんな勝手な真似したのは・・・」

僕の疑問には構わずに君は説明を続ける。

「それでね、5月はエメラルドになってるの、だから私の誕生石はエメラルドなの」

「・・・・・」

時々、女子の会話についていけなくなる。