あの頃、ふたりで。

遠い昔のラブソング

イルミネーション

あまりに大切なものを失くすと、人間(ひと)は失くしたこと自体を忘れようとする。そうした防御本能が働くのだろうか、君と別れてしまった実感がない。どこか他人事で、この先もこれまでと変わらないと思い込もうとしている。

2週間が過ぎ、3週間が過ぎようとする頃、なんの連絡もないまま時間ばかりが過ぎて行くことへの焦りが胸奥からせり上がってきて、やがて圧倒的な喪失感に襲われる。胸の周りが圧迫されて息がうまく吸えない。視野は狭くなり周りの音が意味をなさない。

楽しかった日々がそのまま刃となって内側から胸を突き通し、溢れ出た痛みが喉をせり上がってくる。強がりは通用しなかった。

 

約束なんて何の役にもたたない。

それを成就させるにはふたりの協力が不可欠なのに、破り捨てるのは一方通行で事足りる。君と僕の繋がりが、こんな理不尽が通用するほど脆いものだなんて考えたくもなかった。

 

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冬になると空気が乾燥するせいだろう。夜空に瞬く星々は夏より数倍キラキラと輝く。街の中のイルミネーションは、だからより一層輝いて綺麗だ。

すれ違うカップルはコートに身を包み、コートの厚みに負けぬようにと密着度を増して頬を寄せ合っている。どのカップルも幸せそうだし、イルミネーションに劣らぬ輝きを放っている。僕の目は、無意識のうちに君と僕に似たカップルを捜してしまう。そうしたカップルの1組に、僕たちもなっていたはずだったから。

両手をコートのポケットに突っ込み背中を丸めて歩く僕の右腕は、虚しく「く」の字に曲がっている。君の細い手や腕は、もう絡んでこない。