あの頃、ふたりで。

遠い昔のラブソング

独白

虫の報せ

心配事の9割は起こらないと云われている。思い出に思い出以上の意味を持たせようとする心理は、慎重に排除しなければならないだろう。それが正論だと頭の隅のほうで警告灯が明滅している。北海道を度々襲っている大きな災害が、抱えてしまったわだかまりを増…

インターバル

過去は変えられない。幕の向こう側へ行くには新しく始めなければならない。選択できる道はこれしかなかった。結果がどうあれ、自分を誤魔化すことはしたくなかった。心の底から湧き上がる熱い思いを言葉にしよう。鎧を着て後ろを向いてしまった君の心を、解…

イルミネーション

約束なんて何の役にもたたない。それを成就させるにはふたりの協力が不可欠なのに、破り捨てるのは一方通行で事足りる。君と僕の繋がりが、こんな理不尽が通用するほど脆いものだなんて考えたくもなかった。楽しかった日々がそのまま刃となって内側から胸を…

棘(トゲ)

君はいつも僕の1歩前を行く。北見を離れる日もそうだった。君のドアをノックすることもなく帰ろうとした僕に、君は「チョット待ってよ、それでいいの?目を覚ましてよ!」と僕の横っ面を張り飛ばしてくれたんだ・・と感じている。 あれは9月の初め、午後の…

偶然と必然

「そう言うと思ったよ」係長はニッと笑って言った。「北海道は北見っていう所だ」初めて聞く地名だった。距離感がまったくつかめない。「網走の方らしいぞ」係長は事もなげに言い放つ。奇跡のような君との出会いが北見で待っているなど夢にも思っていなかっ…

あの頃

途切れとぎれに思い出すエピソードのピースは、それらを拾い集め繋ぎ合わせて再構成すると、一つのショート・ストーリーとして様々な意味を帯びてくる。そこで覚えるのは懐かしさというより、あまりに遠くなってしまった存在に対する、苦みや痛みに近い感覚…